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プロパティマネジメント

2023年02月28日

新しい防災教育|非常食試食会のススメ

 今年の2月6日に発生したトルコ・シリア地震では、震源域が広範囲に及び多くの建物が倒壊したことなどから、この10年間に起きた地震災害としては犠牲者の数が最も多くなったと 報道で伝えられています。 耐震基準の異なる日本とは比較ができないかもしれませんが、他国とはいえ首都直下地震の恐ろしさを感じずにはいられません。
 2011年3月11日に未曽有の事態を招いた東日本大震災は、発生から間もなく12年がたちますが、首都圏ならびに各地方都市における防災のあり方にさまざまな影響を与えました。こうした地震のニュースに触れるたび、備えることの大切さが思い起こされます。

 災害発生からの生存率は72時間、つまり初動の3日間が生死を分けるとされていることから、この間、被災地域では救助活動に最善を尽くすことが最優先されます。こうした活動をスムーズに行うためにも、また、都市部における帰宅困難者対策としても、防災備蓄は3日分の備えが最低限必要であるといわれているのです。命をつなぐための非常食を1人あたり9食分と考えたとき、どのような非常食を従業員のために用意しておくべきでしょうか。

 今回、私たちは防災教育および訓練の一環として、非常食をイメージするだけではなく実際に食べてみようと話し合い、初めて従業員による非常食の試食会を企画・開催しました。 「非常食を初めて食べた」「非常食のイメージが変わった」という従業員も少なくなく、「自宅の備蓄も見直したい」という感想もありました。特に、非常食を実際に調理し、食べてみることで、想像とは異なる気づきも多く、大変有意義な機会となりました。そこで、今回はオフィスの防災対策としてはもちろん、社員同士の交流の場としても活用できる、「非常食試食会」の実施レポートをお届けします。

非常食は日持ちすればよい? 試食会開催の前に考えた視点

 非常食を準備する、または入れ替えをする際に、みなさまの会社ではどんな基準で選択をしていますか?
・消費期限・賞味期限といった視点から、なるべく日持ちするもの
・従業員分の非常食を常にキープしておく必要性から、かさ張らないもの・管理しやすいもの

……を優先に、「非常時なのだから何か口にできればよい」と平常時の管理者としての目線で 選んでいることが多いかもしれません。けれど、食事をすることで気力が高まったり、ほっと一息つけたりするなど、心や体の充実につながることはありませんか。そこで私たちは、上記に加えて「満足できる食事が取れること」という視点を設けました。


 食は生きる力の源になるものですが、毎食同じものの繰り返しになると飽きがきて、避難の時間が長引くほど栄養に偏りも生じます。非常時に備えるからこそ、ただ食べるためだけを意識した管理しやすい同一のものより、そこに楽しみや喜びを見出せるものの方がよりよいのではと考えました。豊かな食事の時間は、被災した人、被災をサポートする人、双方にとって活力になるエネルギーとなるはずです。

 最近では、従来のイメージを払拭する、さまざまな非常食が登場しています。手間や味はもちろん、健康に配慮した商品もあるといいます。家庭での備蓄や入手のしやすさという面も考慮して、今回の試食会で提供する非常食は市販のものからピックアップすることにしました。具体的な試食会の進行は、次の項で詳しく説明します。

イメージが変わった! オフィスで「非常食試食会」の開催

 オフィスでの防災対策として気にしたい点は、防災担当者・管理者だけではなく、多くの従業員に当事者意識を持ってもらうことにあります。「参加型の試食会」とすることで、従業員が防災を自分ごととして意識することを期待しました。


●対象非常食の選定
 「非常食試食会」を開催するにあたり、対象非常食は「オフィスでの備蓄防災品になること」と「2年以上の保存が効く商品」を前提にしました。当然ながら入れ替えが頻繁では管理の手間がかかってしまうからです。

 さらに、従業員が家庭においても気軽に取り入れることができることにも配慮しました。
7つのカテゴリー<乾パン・クラッカー類><ごはん><パン><麺><おかず・一品料理><スープ><デザート>から
・手軽にネット注文できる市販品(※試食会開催時点)
・食欲がそそられるもの
・避難時にあればテンションが上がりそうなもの
・同じ商品でも味の種類を選べるもの
……を意識しながら、それぞれ数種を事前に準備しました。

●試食会の準備
 従業員に声をかけ、参加予定人数は50名。初めての試みでもあることから、今回は25名×2日間にわたって開催することとし、「たくさんの種類があることを知ってもらう」という意味も含め、 7つのカテゴリーのすべてからピックアップし、セットメニューとして提供することにしました。

 缶やパウチから取り出してそのまま常温で食べられるもの、お湯や水で戻した後で食べられるもの、そこに調味料を和えるものもあり、非常食の内容は実にさまざま。実際に調理してみて、その手軽さや追加の手間に気付くことができました。お湯を沸かすという作業が発生することで「このオフィスで被災時にこの調理方法は可能なのか?」という問いかけや、調理・食事後に発生する大量のゴミの後始末といったことも、この試食会で得られた課題です。

●試食会1日の流れ
<10:00>
 梱包の開封をスタート。非常食の作り方をその場で確認し、まずは手間別に商品を仕分け。試食会用に大きなものはカットし、お湯を注ぐ・和えるなどが必要なものは調理を行ったうえで取り分け、配膳台の上に並べた25人分のプレートに1人分ずつセットしていきます。昼食までの2時間、1日目は慣れてないせいもあってか、提供時間ギリギリまで作業がかかりました。

<12:00>
 受付で参加者を名簿で確認。その後自身でピックアップをしてもらい、各自で実食。

 1日目は手順を確認する必要がありましたが、2日目となれば手慣れたもの。前日の反省もふまえ作業を分担しながらスムーズに準備ができ、時間も短縮。配膳の準備から実食時間を含め、所要時間はおよそ2時間半となりました。準備をしている間、通りかかった従業員が作業をうかがったり、声をかけたりする様子も見受けられ、社内全体で興味が高まっていることも感じられました。

防災意識が向上すると実感! 多くの気づきが得られた試食会

 試食会に参加した従業員は、実際どのように感じたのでしょうか? 得られた感想から下記にまとめて紹介します。

・非常食はおいしくないという勝手なイメージを持っていたがとてもおいしかった。非常時でもこのような食事をとれることは大変有難い
・非常食とは思えないくらい想像以上においしかった。
 平時に1回でも食べておいしさを知っておけば、災害時、非常食を食べることが心の支えになると思う
・デザートまであるとは思っていなかった。今回のようにバラエティに富んだ内容であれば、災害時にも食事を楽しめると思った

……と、多くの従業員から既知の非常食のイメージを大きく払拭する感想が寄せられました。その一方で

・少し味付けの濃い<おかず・一品料理>は、ごはん類と一緒に食べないと厳しいものもあった
 おかずを備蓄するなら、ごはんとセットで備蓄するといった工夫が必要だと感じた
・おいしく味がしっかりしている分、のどが渇きやすいとも感じた。飲料水が不足する非常時は若干心配
・栄養面のことを考えると野菜やフルーツなどのものがあったらなお良かったと思う
・温かい食事を用意するための備品(ガスコンロなど)の準備も必要だと感じた

……というように、今後の備蓄を考える際に参考にしたい意見も多数ありました。
また、自宅での備えについて意識を馳せた従業員からは、以下のような感想があがりました。

・非常時にも食を楽しめるよう、備蓄品を見直したい
・おいしく食べられる非常食であれば、定期的に入れ替える際のモチベーションにもなってフードロス削減にもつながると思った
・おいしさを実感したことで、実際に食べた備蓄品を自宅に購入する意欲も湧いた。実食体験を通じて防災に対する意識が向上すると
 身をもって感じた
・いざ災害が発生し非常食の活用が必要になった際の事前練習になると感じた
・非常食を日常的に食べるという習慣をつくることで、非常時の「非常」という感覚が少し薄れるのではないかと思った

 災害は無いに越したことはありませんが、身近に触れていないと自分ごととして考える機会が薄れてしまい、防災意識も低下しがちになります。今回の非常食試食会は、どのようなものを選ぶことが大切なのか、どのような準備が必要なのかが見えてくると同時に、従業員それぞれの防災意識の高まりを得ることができました。さらに、組織をこえて従業員同士が顔をあわせる機会になり、会話のきっかけづくりにもなるという二次的な効用もあったように思います。

 ローリングストックが大切と言われる非常食。消費期限・賞味期限を意識した備蓄の入れ替えの際などに定期的に試食会を実施することは、必要な防災知識をお互いにアップデートする機会につながると実感することができました。すでにご存知かと思いますが、内閣府では大規模な地震が起こった際、応急活動への支障防止や帰宅者自身の安全の確保のために、大都市圏においては「3日間の一斉帰宅抑制」のガイドラインを示しています。「東京都帰宅困難者対策条例」でも3日分の防災備蓄に努めるよう促されています。オフィスの防災において3日間の備えは必須といってよいでしょう。
 
 防災用品の調達を改めて検討しようという企業さま、自社の備蓄計画を見直そうという企業さまは、ぜひお気軽にご相談ください。最適な防災備蓄のご提案をいたします。
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ここまでご覧いただきありがとうございました。取り寄せた非常食リストを以下にアップしましたので、みなさまの企業で/事業所で非常食試食会の企画を立てる際の参考として、どうぞお役に立ててください。


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