お役立ちコラム
2026年04月15日
突然、見えない水が街を襲う!?都市型水害の脅威と対策

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鈴木主査:「桜も咲いて暖かくなってきましたけど、ちょっと天候が不安定ですね…」
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内山課長:「そうね。これからの季節は、都市型水害に注意が必要だと言われているのを知ってる?」
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寺西社長:「都市型水害というと、短時間の強い雨で排水が追いつかなくなるケースだね。特に春は天気が急変しやすい時期だから、出先で困らないように浸水しやすい場所の確認など事前の対策を頼むよ」
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鈴木主査:「ハザードマップで浸水エリアをチェックしておきますね。みんなにも注意するよう呼び掛けます」
この時期に注意しておきたい「都市型水害」
寒さの中にも春の気配が感じられる季節となりました。しかし、例年3月から4月にかけては、移動性高気圧と低気圧が交互に日本付近を通過することで天気が変わりやすくなり、時には「春の嵐」と呼ばれるほどの荒天に見舞われることが少なくありません。
災害対策のご担当や経営者のみなさまは、この時期にどのようなことを思い浮かべますか。冬の間は乾燥による火災に注意を払ったり、雨が降らな過ぎて渇水に悩まされたりした分、その反動で今後は「大雨が降るのではないか」と警戒されているのかもしれません。特に、アスファルトやコンクリートに覆われた都市部では、短時間に猛烈な雨が私たちの想像を超える事態を引き起こすことがあります。この現象は「都市型水害」と呼ばれています。
「うちは川や海の近くではないから大丈夫」と思っていませんか?実は、その考え方が都市型水害の最も怖い落とし穴。今回は、すべての都市で事業を営む企業にとって他人事ではない「都市型水害」の危険性と、その備えについて、前編・後編に分けてお届けします。前編では、まず都市型水害のメカニズムと、企業が直面する課題、そして日本の主要都市圏での対策について整理していきましょう。
「都市型水害」はなぜ起こる?企業が直面するリスクと各都市の対策
都市型水害は、主に「内水氾濫」という現象によって引き起こされます。これは、河川の水が堤防を越えて溢れ出る「外水氾濫」とは異なり、市街地に降った雨が、下水道や排水路の処理能力を一時的に上回ることで、マンホールや側溝から水が溢れ出し、道路や建物が浸水する現象です。
地表の大部分がアスファルトやコンクリートで覆われている都市部では、雨水が地面に浸透しにくく、一気に下水道へ流れ込みます。 近年頻発する「局地的集中豪雨(ゲリラ豪雨)」や「線状降水帯」のように、1時間に50ミリを超えるような非常に激しい雨が降ると、排水システムはあっという間にパンクしてしまうのです。
国土交通省の発表によると、令和6年の水害被害総額は約7700億円(暫定値)で、その内訳は家屋や事業所資産、農作物など一般資産の被害が約1100億円(14.3%)、河川や海岸、道路、港湾など公共土木施設の被害が約6450億円(83.91%)、鉄道や水道、電力、ガスなど公益事業の被害が約140億円(1.8%)となっています。被害建物は約1万1000棟、被害を受けた区域面積は約2万1300ヘクタールに及んでいます。
なお、この数字には、交通機関の運休などによる波及被害、被災した企業の部品・ 製品供給機能、本社機能などが損なわれることによる他地域の企業への影響などに係るものは含まれていません。一般的に都市部では工場・店舗・オフィスが集中しているため、企業被害の比率が高くなる傾向にあります。また、都市型水害特有の企業被害の特徴としては、直接損失以上に営業停止やサプライチェーン寸断による影響が大きく、数字に出ない企業損失を含めて深刻な影響を及ぼすと言えるでしょう。
(1)物的損害
オフィスビルや店舗の1階、あるいは地下階にある電気設備やサーバールーム、駐車場が水に浸かれば、事業の根幹を揺るがす大きな損害につながります。工場や倉庫では、製品や原材料が水損被害に遭うリスクがあります。
(2)事業継続への影響
道路の冠水は、従業員の出退勤を困難にし、物流を寸断します。サプライチェーンの停滞は、自社だけでなく取引先にも影響を及ぼしかねません。
(3)従業員やお客さまの安全
地下鉄の駅や地下街、アンダーパスなどが急速に浸水する危険があり、従業員はもちろん、施設を利用するお客さまの安全な避難経路を確保することが重要な課題となります。
こうした脅威に対して、全国の自治体がハザードマップを公開して住民や企業に注意を促すとともに、それぞれの都市の特性に合わせた対策を講じています。ここでは、五大都市の特徴と私たちが知っておくべき対策について簡単に紹介しておきます。
札幌市の特徴と対策
札幌市は、北海道・石狩平野の南西部に位置し、豊平川の扇状地を中心に市街地が形成されています。そのため、市北部には低平地が広がり、たびたび水害に悩まされてきました。
こうした背景を踏まえ、「札幌市雨に強いまちづくりプラン2027」では、インフラ整備によるハード対策と、情報提供や避難行動の促進といったソフト対策を組み合わせ、浸水被害と人的被害の低減に取り組んでいます。さらに、「さっぽろ防災ポータル」や「札幌市下水道水位情報システム」では、水位や雨量を確認できる情報が公開されており、大雨時の防災行動に活用が求められます。
3月の融雪期に山間部の急崖で雪崩が発生するほか、4月中旬から5月上旬にかけては春先の高温や降雨により融雪が促進され、いわゆる「融雪災害(出水)」が発生するという特徴もあります。
・さっぽろ防災ポータル(外部リンク)
・札幌市下水道水位情報システム(外部リンク)
札幌市街地を南北に貫流し、石狩川へと合流する一級河川・豊平川。札幌市民にとってなくてはならない川であり、古くから治水と利水の両面でまちづくりの重点に置かれている
東京都の特徴と対策
東京都は、山地・丘陵地・低地といった多様な地形を有するほか、都心を中心に地下街や地下鉄など地下空間が網の目のように広がっています。そのため、局地的な豪雨によりさまざまな風水害が発生するおそれがあります。2025年9月の豪雨では、河川から離れた窪地に雨水が滞留し、広範囲で建物浸水が発生しました。また、資産の集積が進んだ東京では、浸水面積当たりの被害額(いわゆる水害密度)が増加する傾向にあります。こうしたリスクに備え、「水害リスク情報システム」や、一人ひとりが避難行動を事前に整理する「東京マイ・タイムライン」などが公開されています。日頃から確認し、いざという時の行動に役立てましょう。
・東京都「浸水リスク検索サービス」(外部リンク)
・東京都「東京マイ・タイムライン」(外部リンク)
東京の下町7区(北区、足立区、荒川区、台東区、墨田区、中央区、江東区)に接しながら東京湾へ注ぐ一級河川・隅田川。春は桜、夏は花火の見物客でにぎわう
名古屋市の特徴と対策
名古屋市では、平成12年9月の東海豪雨や平成20年8月末豪雨により、市内各所で広範囲にわたる浸水被害が発生しました。特に東海豪雨では、市域の約37%が浸水し、地下鉄や地下街への被害も相次ぎました。これを受け、浸水被害が顕著だった地域や名古屋駅周辺など都市機能が集積する地域を中心に、「緊急雨水整備事業」が進められました。現在は「名古屋市総合排水計画」に基づき、より強い降雨への対応を進めるなど、大雨に強いまちづくりが推進されています。また、市内の防災情報は「なごやハザードマップ防災ガイドブック」に詳しく掲載されているほか、「名古屋市防災アプリ」を活用することで、知りたい地点の情報を手軽に確認できます。
・なごやハザードマップ防災ガイドブック(外部リンク)
・名古屋市防災アプリ(外部リンク)
かつて名古屋港と都心部を結ぶ水運物流の大動脈として機能した中川運河。現在はにぎわい創出とともに、都市の治水機能強化を担う水辺空間として再生が進められている
大阪市の特徴と対策
大阪市は、市街地の約9割が平坦な低地で、自然排水が困難な浸水しやすい地形となっています。このため、概ね10年に1回程度の大雨である1時間60ミリの降雨を対象として、下水道整備を進めてきました。しかし近年は、短時間に非常に強い雨が降ることも多く、雨の降り方によっては浸水が発生しています。こうした状況を踏まえ、「淀の大放水路」をはじめとする主要な下水道幹線の建設やポンプ施設の新増設を進めるとともに、局所的集中豪雨による浸水被害の状況調査や原因分析を行うなど、「集中豪雨被害軽減対策」に取り組んでいます。浸水想定区域図など防災・まちづくりに関することは「マップナビおおさか」が詳しく、リアルタイム情報は大阪府全域が対象の「大阪防災アプリ」(行政区で絞り込み可能)で確認できます。
・マップナビおおさか (外部リンク)
・大阪防災アプリ(大阪市防災アプリ) (外部リンク)
淀川の分流である堂島川と土佐堀川に挟まれた中洲・中之島。都市機能が高度に集積するエリアであり、大阪を象徴するシンボルスポット
福岡市の特徴と対策
福岡市では、平成11年6月の豪雨で甚大な浸水被害が発生したことから、「雨水整備Doプラン」で時間雨量59.1ミリと設定した重点55地区を、「雨水整備レインボープラン(博多・天神)」で時間雨量79.5ミリと設定した重点4地区を整備してきました。次年度が目標年度となる「雨水整備Doプラン2026」では、さらに多くの地区を対象として雨水整備に取り組んでいます。ハザード情報を集約した「総合ハザードマップ」では博多駅周辺、天神駅周辺を対象とした内水ハザードマップのほか、河川の氾濫を想定した洪水ハザードマップなどが確認できます。また、避難所のルート確認や災害発生時に市との情報共有ができる防災アプリ「ツナガル+」の普及活動にも積極的です。
・福岡市総合ハザードマップ(外部リンク)
・福岡市 防災アプリ「ツナガル+」(外部リンク)
福岡藩により整備された中洲は、那珂川と博多川に挟まれた水辺の街。博多と天神を結ぶ位置にあり、繁華街の一角としてにぎわう
このように、各都市で浸水対策は進められていますから、自治体の公開情報をしっかり自社の防災活動に役立てられるようにしておきましょう。リスクの度合いを把握し、これに備えておくことは「自助」「共助」に必要な視点です。高リスクな場所にオフィスや倉庫を借りて営業している事業者であれば、移転を視野にBCPを練り直すことも大事です。
知識から体感へ。災害を「自分ごと」にする防災体験施設
ハザードマップを確認することは、防災の第一歩です。しかし、頭で理解することと、実際にその場に遭遇した時に体が動くこととの間には、大きな隔たりがあります。そのギャップを埋めるために、私たちが注目したのが「防災体験施設」です。
東京消防庁が運営する防災館のひとつ、「本所防災館」(東京都墨田区)は 都内の防災館の中でも、特に都市型水害の体験に力を入れているのが大きな特徴です。
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東京消防庁 本所防災館(東京都墨田区)
ここでは、インストラクターの案内のもと、災害をリアルに体験できるツアーが用意されています。例えば、以下のような体験が可能です。
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- 暴風雨体験
- 風速30m/sの風と1時間に50ミリの雨が、どれほど凄まじいものか。専用のレインウェアを着用して体験することで、台風接近時の屋外活動がいかに危険かを肌で感じることができます。
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- 都市型水害体験
- 浸水した地下室のドアや自動車のドアが、水圧でどれほど重くなるのか。わずか数十センチの浸水でも、大人の力で開けるのが困難になることを知り、早期避難の重要性を痛感させられます。
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- 地震体験
- 最大震度7の揺れを、コンビニや屋外といったリアルなシチュエーションで体験。突然の揺れの中で、まず何をすべきかを考えるきっかけを与えてくれます。
これらの体験はすべて無料です。災害の恐ろしさを知識として知るだけでなく、その時何が起こり、どう行動すべきかを「体感」として学ぶ。これこそが、いざという時の冷静な判断につながるのではないでしょうか。
本所防災館の体験ツアーは予約制です。
事前予約はこちらから▼ (外部リンク)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/taiken/honjo/index.html
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鈴木主査:「今年の花粉は大変でしたけど、これからは雨にも注意が必要ですね」
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内山課長:「雨が降らな過ぎても困るし、降り過ぎても困るし、ちょうどいい感じにならないものかしら」
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寺西社長:「何事も“過ぎたるは及ばざるがごとし”だねぇ」
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総務の馬場さん:「あら、売上は多ければ多いほどよくてよ」
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寺西社長:「“恵みの雨”は歓迎だよ!新年度だから気持ちを切り替えないとね!」
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内山課長:「雨を味方に、ですね!ちょっとワクワクしてきました〜」
次回は東京消防庁「本所防災館」の体験レポートをご紹介します
今回は、都市型水害のメカニズムと、企業が備えるべき視点についてお届けしました。まずは自社の立地するエリアのハザードマップを確認し、どのような水害リスクがあるのかを把握することから始めてみてください。
さて、次回【後編】では、実際に私たちスタッフが「本所防災館」を訪れ、暴風雨や都市型水害を体験したレポートを詳しくお届けします。果たして、シミュレーションと分かっていても、冷静に行動することはできるのでしょうか。ぜひご期待ください。
当社は、オフィスビルや商業施設のプロパティマネジメントのプロとして、防災計画の策定・実施、各種備品の調達など、「企業防災」に関するあらゆるご相談を承っております。お気軽にお声がけください。