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2023年08月25日

いざという時に生き残れるか?「東京直下72h TOUR」を体験

 政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会によれば、今後30年以内に南海トラフ地震がおこる確率は70~80%と予想されています(算定基準日は2023年1月1日※1)。マグニチュード8~9クラスの地震が起こった際、どうすれば自分自身や家族、まわりの人たちを守ることができるでしょうか? 今回は、9月1日の「防災の日」を前に、私たちの本社と同じ東京臨海部エリアにある防災体験学習施設「そなエリア東京」を訪問し、地震発生後72時間の被災対応と帰宅困難体験ができる「東京直下72h TOUR」に参加した模様をお伝えします。実際どんな体験ができたのか、ここでその内容と感想をレポートし、首都直下型地震への備え/心構えを再確認します。


※1:「長期評価による地震発生確率値の更新について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会/2023(令和5)年1月13日)

国や自治体の支援が来るまでの「3日間」がカギになる

 “72時間”=3日間は、人命救助の観点から人間が飲まず食わずで生きていられる生存率の分岐点ともいわれ、国や自治体などの「公助」活動においては、この時間を目安とした初動が最優先課題となります。大規模災害が発生した際、こうした公共機関が被災現場の状況を把握し、適切な支援を決定・実行するまでの間、被災者は「自助・共助」の活動で生き抜かなければいけません。この期間にどういった困難が発生するか、それに対してどう対処すればよいのかをあらかじめ学習できる施設が「そなエリア東京」であり、「東京直下72h TOUR」は、首都直下型地震に遭遇しても1人ひとりが適切な行動を取れるようにと提供されている体験学習ツアープログラムです。

入り口で1人1台タブレット端末を受け取ったあと、エレベーターホールを模した場所で端末の操作や注意事項などを受けます。この説明によると、夕方6時、駅ビルの10階にあるシネマフロアからエレベーターに乗り込んで巨大地震に遭遇する、という設定のよう。他の参加者たちと一緒にエレベーターを模した空間に積まれて、いよいよ体験ツアーの始まりです。




【エレベーターの非常用電源に切り替わる暗転演出に、一瞬ドキリ】

暗がりの中、開いたエレベーターから駅ビルの狭い通路を抜けて外へ。その先には、倒壊したビルに押しつぶされた車、ガラスが割れた商店街、今にも落ちてきそうな看板や室外機などといった、無惨な街の光景が広がっていました。店の中は倒れた什器や商品が足の踏み場もないほどに散らばり、火災が発生している個所もあります。








【被災した商店や住宅などリアルな街並みが広がっている】

通路に面した大型ビジョンでは、ヘルメットをかぶったアナウンサーがマグニチュード7.3、最大震度7の首都直下地震が起きたことを告げ、余震の危険があるので落ち着いて行動するようにと繰り返し、緊迫感を伝えてきます。








【アナウンス映像が臨場感をさらに増している大型ビジョン】

タブレット端末に表示されるクイズ形式で被災直後に取るべき行動を選択しながら、被災した街のゾーンから、次の避難所ゾーンへと向かいます。









【災害を生き抜くヒントを動画で学ぶARマーカーが随所にある】

ちなみにタブレット内には「外出先で地震にあったら? 」と「自分の住むまちで地震にあったら? 」の2つのシナリオがありどちらかを選べますが、ツアーは何度も繰り返し体験できるので両方体験しておくのも良いかもしれません。








【クイズに答えながら避難所まで移動】

避難所ゾーンでは、ARと連動した実物展示で避難所の過ごし方が体験できます。簡易トイレの使い方やレジ袋を三角巾の代わりにする方法、災害時伝言ダイヤルの仕組みなど、その状況になってからではとまどってしまうような事柄も学ぶことができます。また、地震の揺れを擬似体験するコーナーもあります。







【簡易トイレなど避難所設備の説明】

タブレットを使うのはここまで。無事に生き抜くことができたかどうかがクイズの回答による点数となって表示されるので、達成感も高まります。








【防災クイズの採点は……100点!無事3日間を生き抜くことができた】

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実は「そなエリア東京」の地下には大規模災害時に現地対策本部が設置される本物のオペレーションルームがあり、ガラス越しですが上部から見学することもできます。こうした備えを見るだけでも、災害への備えを「自分ごと」として捉える良い機会になるでしょう。






【映画「シン・ゴジラ」の撮影にも使われたというオペレーションルーム】

周囲の人々とともに生き延びるという視点を養おう

 2012年以降の10年間、世界で発生したマグニチュード6.0以上の地震の11.9%が日本で起こっている(※2)といわれるほど、地震が多い日本。また近年は、地震に限らず風水害といった激甚災害が毎年のように発生するようになりました。超高齢化が進む現代日本では「公助」に頼り切らず、自分自身や家族が生き延びるための「自助」、仕事仲間、近隣住民、取引先など周囲の人々とも協力して助け合う「共助」の両輪が、防災・減災を考える上での命題といえるでしょう。そのような視点で見ると、こうした防災体験施設での体験もまた違った学びが得られるのではないでしょうか。


※2:「河川データブック2022」(国土交通省/2022(令和4)年8月)全体版31P

実際、今回は当社の各物件でPM業務を行っているスタッフも同行しましたが、自オフィスや管理物件の防火・防災体制を見直す良い機会になったという感想が多く聞かれました。







【日ごろからの防災への備えの重要性を実感したと語る今回の参加者たち】

【参加者の感想(抜粋)】
〇部署のメンバーや関心のあるテナント様とも一緒にまた参加したい。
〇防災訓練の内容に本施設で得た知見を部内に反映させたい。
〇発災後の72時間の重要性は東日本大震災を経験して実感はあったものの、今回改めて72時間の中で何をすべきか具体的に学習した。社内やお客さまにも学んだことを伝えたいと感じた。
〇事前にできる対策として、事務所内の家具や備品の固定、身近にあるものでできる応急処置(ビニール袋を用いた三角巾)などの豆知識をチームに情報共有・反映していきたい。
〇管理ビルからどうやって退避するかだけでなく、自宅までどのように帰宅できるかということまで、想定すべきかと感じた。
〇手作り防災用品や、防災ゲーム等の情報を活かして、ビルの体験型防災イベントにつなげたい。

 当社の管理物件には、テナント帰宅困難者の支援に限らず、地域の避難場所として自治体指定を受けているところも少なくありません。事業所のある周辺環境を深く知り、日ごろから地域住民を視野に入れて災害に備えることは、当社の持続的な事業継続のために疎かにできない企業活動です。テナントのみなさまへ良質な仕事環境を提供し、いざという時に俊敏な災害対応力(発災後から避難するまでの間にとるべき行動)を発揮できるよう防災訓練に努めています。今回の体験を通じて、こうした気持ちを新たにすることができました。

企業の防災対策の一環として防災体験施設の活用を

上記のことから、今回訪れた「そなエリア東京」のような防災体験施設は1人ひとりの防災意識向上に役立つのはもちろん、企業の防災訓練としてもオススメです。

 企業の防災訓練は、いつものメンバーでいつもの場所、訓練内容も例年同様となればどうしてもマンネリ化しがちではないでしょうか。専門の防災体験施設で災害に対する判断力・行動力を社員が身をもって養い、その経験をもとに自社の災害対応マニュアルを作成・アップデートしていけば、防災訓練の形骸化防止にも役立ちます。また、多くの防災体験施設では、地域性を考慮したプログラムを提供しているため、事業所に勤める従業員が地域社会をより意識することもできます。

 企業が防災対策を強化することは、従業員の安全確保やビジネス継続のために必要なことであり、地域社会との協力関係を築くことにもなるでしょう。これまでのコラムでお伝えしている、安否確認を初めとする防災・減災対策(※3)や、非常食試食会(※4)といった提案も踏まえ、企業の防災訓練の1つとして防災体験施設の活用を計画してみてはいかがでしょうか。


※3:企業のレジリエンスを強化するオススメ防災対策


※4:新しい防災教育|非常食試食会のススメ

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日本各地にはさまざまな防災体験施設があります。以下にいくつかの施設を簡潔に紹介します。みなさまの地域の施設にもぜひ足を運んでみてください。


〇北海道札幌市:札幌市民防災センター

 2023(令和5)年4月リニューアルオープン。消防署併設。市民の防火・防災意識の向上を図ることを目的として開館し、さまざまな災害を疑似体験することができる体験型施設。

〇宮城県本吉郡南三陸町:南三陸町東日本大震災伝承館 南三陸311メモリアル

 2022(令和4)年10月にオープンした「道の駅さんさん南三陸」内にある震災伝承施設。近隣の震災遺構や有料のシアタープログラムなどで、災害を肌で感じ、防災を学ぶことができる。

〇神奈川県・厚木市:神奈川県総合防災センター

 神奈川県の災害支援拠点の一角にある、広大な防災体験館。地震や風水害などの体験のほか、公衆電話の通報体験、心肺蘇生体験など対処として使える体験メニューも充実している。

〇静岡県・静岡市:静岡県地震防災センター

 2020(令和2)年に展示内容を一新し、地震災害に加えて、豪雨による河川災害・土砂災害、火山活動による噴火災害に対する防災想定をした映像コンテンツやプロジェクションマッピングを整備。Webサイトで館内の3Dウォークスルーを公開中。

〇大阪府・大阪市:大阪市立阿倍野防災センター あべのタスカル

 南海・東南海地震や南海トラフ巨大地震の発生に備え、目的によって異なるプログラムで防災技術や知識を習得できる体験型防災学習施設。体験コースはツアー形式で7コースから選択できる。

〇京都府・京都市:京都市市民防災センター

 建物内の3フロアに7つの体験室を設け、災害時に不可欠な防災知識や行動について詳しく学ぶことができる。ミニコーナーも多くメニューが充実。事業所向けの「法定講習会」なども積極的に行っている。

〇福岡県・福岡市:福岡市民防災センター

 VRを使った防災体験、煙からの避難体験、水消火器を使った消火訓練、地震体験を連続で受けられる1時間20分のコースと、さらに30分の講習が受けられるコースがあり、防災に関する知識や対処法などを身につけることができる。


★今回の取材協力:そなエリア東京

 〒135-0063 東京都江東区有明3丁目8番35号 防災体験学習施設の利用時間/9:30〜17:00(入場は16:30まで)


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