お役立ちコラム

ワークプレイス分野

2022年12月20日

ワークプレイス構築のヒントがいっぱい、本社オフィス仮想ツアー  (後編)

オフィスワークとテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」が普及するなか、オフィスを「出社したくなる場所」にしたいと、お客さまからご相談をいただくことがあります。働く場所の環境はオフィスワーカーの「やる気」を左右する、と頭ではわかっているものの具体的なイメージが湧かない、というお客さまも少なくありません。こうしたお客さまの声に応えるため、私たちは本社オフィスをショーケース化しました。先のコラム(前編※)では、本社オフィス移転プロジェクトを実例に、オフィスプランニングや工事の進め方のポイントについて紹介しました。後編となる今回は、本社オフィスで実現させた快適性や機能性について具体的にお伝えします。前編に引き続き、プロジェクトを担当した首都圏第一事業部 首都圏建築設備担当 増田と、リレーション推進本部 サービス推進部 近藤の両名がご案内します。みなさまのオフィスづくりの参考になれば幸いです。


※:ワークプレイス構築のヒントがいっぱい、本社オフィス仮想ツアー(前編)

オフィスコンセプトは「快適・健康」と「知的生産性」の両立

 最初に前編のおさらいになりますが、本社オフィスは、2021年7月から約半年間にわたる移転プロジェクトを経て、2022年1月に田町のグランパークタワー13階へ移転しました。専有面積は約1,800㎡で、従業員300名ほどが所属しています。一人当たりの座席面積は、移転前3㎡から移転後4.28㎡まで拡大し、広々とした執務環境になりました(出社率7割で算出)。

 新オフィスは「快適・健康」と「知的生産性」の両立をメインコンセプトに設定しています。自社の働き方にマッチした使いやすいプランをベースに、快適で居心地の良い内装や什器を吟味し、新しい働き方をサポートして社内外のコラボレーションを促進する各種 ICTソリューションを導入しました。それらの取り組みに加え、明るく開放的な建物の基本性能と適切な維持・運用計画などにより、CASBEE-SWO(スマートウェルネスオフィス)評価認証の最高位である「Sランク」の取得に成功しています。いまなお改善を続けるオフィスづくりに関して、近藤・増田の両名は次のように振り返ります。

近藤:「新オフィスはハイブリッドワークのハブとして機能することが求められました。そのためには、従業員の自律性を高め、協業しやすい場所にする必要があると考え、グループアドレスを導入し、コミュニティエリアや集中席、Web会議ブースなどを設定、それぞれの場所の特性や目的に応じて使用できる各種のソリューションを配しています。また、初期段階からCASBEE-SWO認証の取得を視野に入れ、従業員のウェルネスの向上に寄与するような要素を取り入れて計画を進めました」

増田:「私たちの事業の中心である“街づくり”から、空間デザインのコンセプトとして“積層(Layer Stack)”というキーワードを導きだすまで、ワーキンググループ内で何度も話し合いました。キーワードが決まってからも、デザイン案を何度もやり直すほどオフィスデザインにはこだわっています。特に、お客さまを迎え入れるメインエントランスは、グリッド状のモチーフを“積層”させることで、奥行きや重厚感を演出することに成功しました」

 本社オフィスの空間デザインは、増田の言うように“街づくり”を起点として考えています。その表れとして、若手社員の発案により、街並みをイメージしたグラフィックや自社管理ビルをモチーフにしたデザインを随所に施しています。私たちが今まで積み上げてきた経験・ノウハウを活用することで、「建物や街に様々な価値が蓄積されていく」、そうした思いを込めて「積層」というキーワードをデザインコンセプトにしました。

左上:メインエントランスの様子。グリッドを重ね合せることで「積層」を表現し、重厚感溢れるエントランスになった


右上:プレゼンテーションルーム。エントランスからの連続性を意識した内装や什器を選択


左下:メインエントランスへ続く共用部には“まち”を意識したグラフィックをあしらい、視線を誘導


右下:無人受付機のトップ画面は、自社で管理するビルをモチーフにしたデザイン

 さぁ、いよいよオフィス内へと向かいましょう。

創造力を生む、集中力が上がる本社オフィスへようこそ

 従業員用のエントランスは、メインエントランスとは動線を別に設けています。こちらにあるのが、前編で紹介した社員参加型のウェルカムボード です。各地の事業所から出張してきた社員も、ここを通過してオフィスへ入室します。オフィス空間へ至るこのちょっとしたアプローチ経路は、気持ちの切り替えや身支度を整えたりするためのスペースにもなっています。



■糸を編み込むことで「積層」をイメージしたウェルカムボード。従業員が協力して制作したもので、会話のきっかけづくりにも役立っている

 オフィス内には、Wi-Fiと位置検知用のビーコンを設置。各自が携行しているスマホに専用アプリをインストールすることで、「行動モニタリングシステム」を利用できます。このアプリを使えば、社内で誰がどこにいるのかをリアルタイムに把握することができます。また、色分け表示でエリア別の密集状況がわかる機能があり、出社時の場所選択に活用することもできます。この行動モニタリングシステムは現在実証実験中ですが、今後の本格的な導入を検討しています。


■行動モニタリングシステムのデモ画面。オフィスの利用状況などがリアルタイムに表示され、出社している人の名前を表示したり、探したい人の居場所を検索できる

 エントランスには、社内で使用しているエネルギーの利用状況を可視化することで、従業員の省エネ意識を醸成するエネルギーモニタリングシステムを設置しました。現在、このシステムを活用して冬季の節電に向けた空調エネルギーの削減に取り組んでいます。また、オフィス内の電力はグリーン電力を使用しているほか、照明はセンサーと連動した制御になっており、自動消灯や光量コントロールによる省エネを実現しています。

 東西に広がるオフィス内は、中央の「コミュニティエリア」を挟むように「ワークエリアEAST」、「ワークエリアWEST」と大きく3つのエリアに分かれています。「コミュニティエリア」内には、ミーティングやアイデア出しといった、コミュニケーションワークを促進するための「コミュニティラウンジ」をつくりました。協業による作業を支援するためのICTツールも随所に設置しています。このスペースに関して、増田は次のように話します。

増田:「大小のミーティングテーブルやソファ、立ち会議席までさまざまな什器を不規則に配置することで、多様な用途に柔軟に対応しながら交流を促進することを狙いとしました。また、“やぐら”と呼ぶ空間パーテーションにより、視線を遮ることなく適度な“囲まれ感”を演出しました。新しい発想やイノベーションはコミュニケーションから生まれます。従来のオフィスで課題だった“組織を越えた交流 ”を、このスペースで存分に行ってほしいです。そのため、どこからでも緑が目線に入るよう、多くの植栽を置いてリラックスできる雰囲気にしています」

 増田がいうように、植栽に加え、内装や什器もテクスチャー感のある素材とアースカラーを基調とするなど、バイオフィリックデザインを意識したオフィスのつくりは、見た目にも安らぎを与えます。視界に入る植栽の面積比率である「緑視率」を上げたことは従業員からも好評で、オフィス移転完了後に植栽の量をさらに増やしたほどです。

上:オフィス中央に位置する「コミュニティエリア」。空間パーテーションで仕切られたエリアは“やぐら”をイメージしている


下:デジタルホワイトボードやプロジェクションテーブルも導入

 「コミュニティエリア」には、ほかにも短期のプロジェクトを推進するための「プロジェクト席」、独立性を高めて個人の集中作業が行える「集中席」を配しました。










■コミュニティエリア付近には独立性を高めた「集中席」を配置

 エントランスとコミュニティエリアが交わる場所には、立ち寄りたくなり、集まりやすい「マグネットスペース」を用意。軽食と飲み物の自販機や雑誌類、メールボックスなどを設置し、従業員がひと息ついたり、少人数で談笑したりするなど、インフォーマルコミュニケーションを促進する場として活用されています。  







■自然と立ち寄ることを意図した「マグネットスペース」。軽い作業や立ち会議なども行える大型昇降デスクも用意

 次に「ワークエリアEAST/WEST」へ向かいましょう。

 こちらのエリアには、従来の固定席を廃止し、部署ごとに設定されたエリア内で自由に席を選ぶことができるグループアドレスを導入した執務スペース「ステーション」と、周囲を気にすることなくオンライン会議や1on1ミーティングなどで使用できる「Web会議ブース」を設けています。
 「ステーション」の各席には、作業性を高める大型モニターのほか、感染対策として隣席と適度な距離を確保するための可動式の衝立があります。「Web会議ブース」は、特性上、密閉された空間になるため空気質モニターを設置しました。CO₂濃度や温度、湿度、VOCなど10種類の項目を常時計測し、一定の値を超えると光でお知らせするモニターによって、ブース利用者に換気などの対策行動を促します。このエリアについて、近藤は次のように話します。

近藤:「フリーアドレスやグループアドレスを検討する際に、最初は良くても結局は座席が固定化してしまうのではないか?というご意見をお客様からいただくことがあります。実際に運用してみると、確かにある程度の固定化が進みます。ですが、それ自体は悪いことではないと実感しています。固定化は各自が必要に応じて居場所を選んだ結果だと言えますし、居場所が固定化することで相談しやすくなるという効果もあります。ただし、誰も座っていないのに他の人がその席を利用しにくくならないよう、空いているときは使用できる、私物を置かないなど運用上の工夫が必要ですね」

上:「ステーション」はグループアドレスで運用。独立性を高めた席も配置した


左下:遮音性能に優れた「Web会議ブース」


右下:多機能な環境センサーを設置し、空気質を常時モニタリングしている

 保管が必要な紙資料は各部門に割り当てられた書庫で施錠管理。社用端末および私物は、個人に割り当てたロッカーで各自管理を徹底しています。ワークエリアにグループアドレスを導入したことで、終業時にデスクの上を片付ける習慣が浸透し、資料の電子化も進み紙の使用量が大幅に削減されました。

“新しい働き方”を自らが実践・検証するためのマネジメントラボとして

 移転後、本社オフィスは約3カ月間をチューニング期間として運用し、満足度調査や従業員からの意見を募りました。その結果を反映する形で改善を施しましたが、ここで出た課題を増田は次のように振り返ります。

増田:「新オフィスの満足度は総じて高かったのですが、集まった意見を見ると、実際にそのオフィスで働かないとわからない意見ばかりでしたので、ある程度の期間を設け、意見を収集して改善するプロセスは非常に大事だと感じています。オフィスに求められる機能や役割は、社会情勢や事業環境などで絶えず変わっていくものですから、今後もアップデートを常に意識することが重要でしょう」

 また、CASBEE-SWO認証でも「運用・改善」が重視されると、近藤は次のように語ります。

近藤:「従業員の快適・健康に寄与するような要素はもちろんのこと、オフィスを適切に運用し続けるという点も、認証を取得するうえでの重要な評価対象です。完成したら終わりではなく、その後も定期的にアンケートや満足度チェックを行ったりして、改善し続けていく必要があるということです。私たちのオフィスづくりの強みは、多大なコストをかけて特別なオフィスを作ることではなく、必要最低限の時間と費用で快適なオフィスを実現できる点です。本社オフィスのような現実に即した合理的なオフィスでも、さまざまな工夫を凝らし、改善のためのPDCAサイクルを継続することで、理想のオフィスを作ることができることを実証できたと思います」

 私たちのオフィスは、前編でもお伝えしたように、“新しい働き方”を自ら実践・検証するためのマネジメントラボとして、また“新しい働き方”を提示するショーケースとして、現在も改善を続けています。コラムではお伝えできていない内容も多くありますので、ご興味があればぜひオフィス見学にお越しください。

 私たちNTTアーバンバリューサポートは、プロパティマネジメント業務を行っている強みを生かし、オフィスの移転・構築、その後のアフターケアも含めて、お客さまに寄り添ってサポートし続けます。オフィスをより良くしたい、従業員が働きやすい職場環境にしたいとお考えなら、ぜひとも私たちにご相談ください。


※オフィス見学に関するお問い合わせはこちらから

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【今後予定している主なオフィスの改善項目】
 ・各エリアで運用ルールの明確化、周知の徹底
 ・書類保管ルールの設定
 ・フロア内にリフレッシュエリアの設置
 ・ニーズに合わせたモニターや電源の充実
 ・行動モニタリングシステムの本格導入
 ・備品にタグをつけてデジタル上で管理する「備品管理システム」の導入
 ・ホテリング(座席予約)機能の導入